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全員の話をまとめると スザクが以前子供服専門店でカレンの家のメイド(お母さんというのはあだ名のようなものだと説明)と偶然会い、子供服の話をしていたところ(カレンが知り合いの子供にプレゼントする服を選んでいた。スザクも知り合いの子供の服を探していた)を、ミレイ、シャーリー、リヴァルが目撃。「もしかして、二人に双子の子供が!?」という話も出たが、年齢が合わないということで、その可能性はないと判断したが、話の種として生徒会室でも話題にしたところ、話に参加していなかった耳年寄りニーナが「スザクがカレンを襲って妊娠させた。イレブンを入学させたせいだ」と結論を出し、周りに吹聴した結果、襲ったかどうかは別として、二人は付き合っていてカレンが休んでいるのは出産したから。それなのにスザクはカレンを置いてユーフェミア様のもとに(主従関係ではなく恋人として)行きカレンと子供を捨てたという噂にまで成長していた。 だが、この噂は根も葉もない・・・わけではないが、少なくても二人は子供どころかつきあっていないということを、責任持って伝えて収束させることで話はまとまり、スザクはほっと安堵の息を吐いた。 これで問題は終わりかな?と思ったのだが、ミレイはいぜん困ったような表情で口元に笑みを浮かべており、まだ何かあるんだと悟らずにはいられなかった。 「まぁ、これは前菜みたいなものよ。本題は、ここからなのよね」 ですよね。 覚悟を決めて聞いた内容に驚いたスザクは、大慌てで生徒会室を後にした。 向かったのは、ランペルージ兄妹の居住区。 その一室・・・に向かう前に、居住区内を駆けるように周り、兄妹の、いやナナリーの介助のためにここに詰めているメイド、咲世子を探した。彼女は、台所で料理を作っているところだった。 「咲世子さん!」 突然室内に駆け込んできたスザクに一瞬驚いたが、すぐに表情を改めた。 「あ、あの、ナナリーなんですが」 「はい、ナナリー様より、スーさんが来られたらお部屋にと言われております」 少しお待ち下さい。 そう言って再び台所に向かった咲世子は、見るとおかゆを作っている所だった。 出来上がったおかゆを持った咲世子とともに訪れたナナリーの部屋では、部屋の主がベッドに横たわっていた。 人の気配に気づいたナナリーは、顔をこちらへと向けた。 何時も明るく愛らしい笑顔を浮かべていたナナリーは、顔色悪くやつれていた。 何よりその目元は赤く泣きはらしていた。 「ナナリー」 「スザクさん」 痛々しい顔で、無理やり笑顔を浮かべ迎えてくれた姿に胸が痛む。 「大丈夫?あ、起きなくていいよ」 「大丈夫です、具合が悪いわけではないんですよ?」 明るい声で話してくれているが、先程まで泣いていたのだと理解る声だった。 ミレイから聞いた話。 それはナナリーが昨日倒れ、床に臥せっているというものだった。 原因は当然、ルルーシュ。 この国に来てから、ずっと一緒に行動をしていた兄妹だ。最愛の兄ルルーシュが突然帰ってこなくなり、いくらスザクとC.C.がルルーシュは無事だ、元気だと言っても不安は消えず、元気なら一度ぐらい連絡があってもいいのにそれがないということは、連絡できないほどの何かがあったのでは?それを二人が隠しているのでは?という不安と、目と体に障害を持つ自分のことが疎ましくなり、ルルーシュが離れたのではないのかという不安。 そして、いくら信頼している咲世子とはいえ、ルルーシュの代わりなど不可能で、今まで誰よりも信頼し、依存していた兄の長期不在にナナリーは日常生活を送ることにさえ不安を感じ始め、とうとう体調を崩してしまった。 それでも、何時もと変わらず兄を出迎えたいのだと、学校を休むこともせず日々を過ごしていたが、とうとう倒れてしまったのだ。 ナナリーの目が見え、歩けるなら、ここまでの不安を抱えることはなかっただろう。 何も見えない暗闇の中、自由のきかない体の彼女にとって、ルルーシュは自分の目であり、足であり、全ての指針でもあった。兄に頼りすぎだ、甘え過ぎだと思うものもいるかもい知れないが、ルルーシュがいない不安と、彼を失うことの恐怖は彼女にしかわからないことだろう。 「あの、スザクさん、お兄様のことなんですが・・・」 ベッドサイドに置かれていた椅子座ったスザクに、ナナリーは不安げに尋ねてきた。 返ってくる言葉は決まっている。 それがわかっていても、何か新しい情報をもらえるかもしれない、兄の帰宅を知らせてくれるかもしれないという期待が滲んでいた。 「僕もここ数日会ってないけど、この前会った時は元気にしていたよ」 「・・・そうですか・・・・あ、スザクさんユーフェミア様の騎士就任おめでとうございます」 近くに咲世子がいるため、姉とは呼ばずにナナリーは祝福の言葉を送った。 「ありがとうナナリー。それもあって、最近ルルーシュに会いに行けなかったんだ」 叙任式やら何やらで拘束され、その上今朝行ってみたら病院に検査に行っていた。 ああ、早く逢いたいな。 大きなルルーシュもいいけど、今のルルーシュはふにふにぷにぷにと触り心地が良く、天使そのものの笑顔は心を癒やしてくれる。ギュッと抱きしめると最初は嫌がるくせに、気がついたら抱きしめ返してくれるし、離れようとしたらものすごく残念そうな顔をするのがたまらなく可愛い。ああ、僕はルルーシュに好かれているんだなと実感も出来るし、ルルーシュを守らなきゃいけないから仕事も頑張ろうという気になるのだ。まるで子持ちのお父さんのような発言だが、ルルーシュはそんな気持ちを引き出してくれるぐらい愛らしく弱い存在なのだ。 僕でさえルルーシュ不足になっているのだから、ナナリーはもっと酷いことは容易に想像できる。でも、大丈夫ナナリーならルルーシュが帰ってくるまでここで待っていてくれる。きっと笑顔で出迎えてくれると思い込んでいた。彼女の心労など一切考えずに。 「お兄さまはまだ・・・」 勝てないのですか? そう言いたいのだろうが、あのルルーシュが頭脳戦で負ける姿など想像できないし、想像したくはないのだろう、ナナリーはそこで言葉を切った。 「・・・そうだね、まだ時間がかかりそうだね」 幼児化が解消されなければ戻れない。 その方法は今だ不明で、もしかしたら戻る方法など無いのかもしれない。 子供の成長は早いが、ルルーシュの成長を待っていたら10年以上かかってしまう。チェスで負けて、と言う話が本当だったなら無理やり連れ帰るのだが・・・。 意気消沈したナナリーの両目から透明な雫が流れ落ち、スザクは目をそらした。 |